生と死の分岐点

NASAでの研究の結果、理論的に起こりうる間違いは、いつかは
必ず起きることが証明されている。間違いはどこか遠いところで 
 起こるのではなく、人間ならば誰でも犯す可能性を持っている」



と、なんかピンとこない文章ですが、この本を読み終えると
なるほどと思えます。


山の本です。
著者はドイツ人で主にフリークライミングにおける事故についての


事故内容→原因究明→それに対する対策


が書かれています。


生と死の分岐点―山の遭難に学ぶ安全と危険

生と死の分岐点―山の遭難に学ぶ安全と危険



写真、イラストが多くわかりやすいし
すべてが具体的事故にそって話が進むので
自分たちの行動に当てはめることもできます。
教則本というよりは、事故辞典といったほうがいい感じです。


とくに想定できる間違いよりも
「間違っても、そんなことぜったいやらへんわ」というようなことが原因の
事故が数多く挙げられています。
「間違って間違った」いる人がいるわけです。


印象に残った事故
・懸垂下降でロープの末端を結ばずに下降。途中までは順調に降り、常にロープが2本
 あることを確認していたが突然1本になり、すっぽ抜けて転落。大怪我。
 原因は2本あると確認したロープが、実は1本とその影だった。


・たくさんのクライマーが群がって懸垂下降しようとしている支点で
 たくさんあった懸垂下降用スリングのひとつに自分のロープを掛けていると思い
 下降を開始。そのまま転落。死亡。、ロープはスリングを通っていなかった


・ロワーダウン中、セカンドがもといた所より低い位置に移動。
 登リ初めは足りていたロープが途中足りなくなり、すっぽ抜けてトップが転落。
 腕を骨折。セカンドがアンザイレンしていれば防げた。


・トップがロワーダウンする前に「テンション」の確認をしたところ
 セカンドが「いいよ」と返事。トップが下降を開始したとたん、落下。
 セカンドは別の友人と話に夢中になり、トップの掛け声を聞いておらず
 たまたま会話の中に出てきた「いいよ」をトップが聞いた


ありえん、ておもうでしょ?
でも起こる可能性があるんです。


そういう事例の詳細な状況を列挙し、原因究明、対策を挙げるこの本は
まず第一に「危機意識」をくすぐり続けてくれることでしょう。
また事故を避けるための対策については


・死ぬ確率はごくわずか。但し0ではない
・限りなく0に近づけるための準備、確認が必要
・ただし、装備(重量)、資金、めんどくささなど、すべての対策を行うことは
 現実的ではなく、何を取捨選択するかは各人が判断すべき。
 (著者いわく「登山道具は妥協の産物」)


と。たしかに事故を防ぐためにクライミングするのではないですからね。


また時たま出てくる事故の現場写真はグロさも感じますが
自分が事故と限りなく近い位置に立っていることを実感させてくれ
これまた危機意識をくすぐります。



最後にぞっとする事故。
お尻の穴がきゅっとすぼみます。。



リードで支点にたどり着き、懸垂下降しようとした彼女は


ハーネスに装備したヌンチャクで自己確保をとり


ロープを解いてから自己確保を取っているカラビナに通しておいて
エイト環にロープを通してハーネスにつけ


自己確保を解除して懸垂下降を開始。


そのとたん、基部まで落下。


落下の原因はロープをアンカーに取り付けているつもりが
実はエイト環をつけるために仮に自己確保のカラビナに引っ掛けた
だけだったこと。


このイラスト見ただけでぞぞっとしました。


ちなみにこの女性は奇跡的に軽傷ですんだそうな。